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山本太郎著『感染症と文明──共生への道』いつだって感染症と戦ってきた人類。今が特別変なわけでもない。

今回紹介する新書

レビュー

人類ははるか昔から「感染症」との戦いを続けてきました。そのルーツは一体どこにあるのでしょうか。本著は、世界史上における感染症と人類の抗争を振り返り、ヒトがどのように感染症と付き合ってきたか、また、今後どのように付き合っていくべきかを考察していきます。

 

階層間の交流を禁止することで感染症流行を予防したカースト制度、ペストによって領土復活の夢を打ち砕かれたユスティニアヌス、領土・交通網とともに未知の感染症をアジアに広めたモンゴル、そのほとんどが旧大陸から持ち込まれたペストによって亡くなったアメリカ先住民、ヨーロッパ人による植民地化を難航させたアフリカの感染症群──。世界史を揺るがした大事件には、いつも感染症が関わっていました。

 

しかし医療技術が進んだ20世紀以降、かつて猛威を振るった感染症の一部は、完全に撲滅することに成功しています。そのため将来的には、病原菌を徹底的に排除し「感染症のない社会」を作り出すことも可能になるかもしれません。

 

しかし筆者は、それは感染症に対する最善策ではないと語っています。その理由は、ある感染症の撲滅が、さらに恐ろしい感染症流行の契機になるかもしれないからです。

 

本書の初版は2011年6月です。あの「東日本大震災」の直後に書かれた今作は、想定外の事態を招く相手に対して如何に妥協点を見出し、共生を図っていくかを特に強調しています。

刊行から約10年が経っていますが、全く古さは感じませんでした。「新型コロナウイルス」と戦う2022年を生きる私たちに、感染症への向き合い方を考えるヒントを与えてくれる1冊です。