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高見玄一郎著『港の世界史』海を掌握した者が、世界を掌握してきた歴史。

今回紹介する文庫

  • 出版社:講談社
  • 発売日:2021/11/11

レビュー

ヨーロッパを中心にしながら、港の発達が世界史にもたらした影響を古代史から20世紀まで辿る1冊。

 

最古の「港」は、現代の私たちからすれば港と呼ぶには程遠い、簡素な船着き場程度のものでしかなかったでしょう。しかし、そのような「港」でも、世界に先駆けて完成し、積極的に遠くへ漕ぎ出した民族たちが、優れた文明を築き上げました。三段櫂船の活躍、フェニキア人の植民市建設、コンスタンティノープルの発展、隋唐の大運河建設、ハンザ同盟の構築など、世界史上の重大な繁栄には、いつも港湾が関わっていました。

 

大航海時代の到来は、これまでの閉鎖的な経済社会を一変する出来事でした。「ジパング」の黄金に触発され、海を渡ってアフリカやインド、さらにはアメリカへ渡る彼らの気概には、目を見張るものがあります。アジア圏も決して負けておらず、バルトロメウ・ディアスよりも先に鄭和の艦隊が喜望峰に到達していたのでないか?という説があるのには驚きました(この説が最近の研究を経てどうなっているのかも気になる)。

 

しかし、産業革命の開始は、西欧圏を一気に世界のトップへと押し上げました。特にイギリスの発展には注目です。その発展には、もちろん機械化による大量生産の開始も寄与していますが、なんと言っても重大な要因は、世界中に品物を輸送するために開発された大型船と大型の港、そしてそれを支えるために構築された、「ロンドン」という一大港湾都市の形成です。

 

今日こそ人やモノの輸送手段は鉄道や飛行機がメインですが、それらが登場したのはせいぜい19世紀。船が物流、人流の要となっていた時代がいかに長かったかがわかります。原著の出版からはかなりの時間が経っていますが、内容的には全く古さを感じず、とても楽しく読めました。

 

世界中との海のネットワークが絶たれたコロナ禍。港は今日、再び大きな変化を迫られています。