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赤瀬浩著『長崎丸山遊廓──江戸時代のワンダーランド』「小さな大都市」長崎を潤し、活気をもたらした、遊女たちの記憶。

今回紹介する新書

レビュー

大阪、吉原と並び三大遊廓と称されて賑わった長崎の丸山遊廓。しかしその様相は、他の遊廓と大きく異なっていました。一般的に江戸時代の遊女と言えば、家が困窮し、生活苦のあまりに身を売らざるを得なくなった女性とされ、下層の者として軽蔑する人が後を絶ちませんでした(…まあ、そういう人も遊廓自体の利用はするんですが…)。

 

しかし、丸山遊廓の遊女は、「小さな大都市」である長崎全体を潤すための貴重な稼ぎ頭として、その家族だけでなく、街が総力をあげて保護する対象でした。彼女らは、自分が遊女であることを誇りに思っていたといいます。くんちをはじめとした諸々の行事でも、彼女らはアイドル同然の厚遇を受けて街を闊歩し、少女たちの憧れの的となっていました。

 

鎖国下の日本において、長崎は独占的に海外貿易の利益を享受していたとされています。しかし、当時の長崎に暮らす人々はそれほど良い生活を送っていたわけではなく、唐人、オランダ人がもたらす貴重な品々を手に入れる術はほとんど無かったと言われています。そこで欠かせなかったのが、彼らの相手をすることで、その品々を報賞やチップの代わりとして手に入れる、丸山遊女の存在でした。やがては貿易をせず、丸山遊廓に行くためだけに中国から足を運ぶような者まで現れ、多くの銀銭を長崎に落として去っていきました。

 

現在の長崎には、明治維新後の芸娼妓解放令、20世紀の売春防止法の施行を経て、かつての丸山遊廓の面影は一切残されていません。しかし、江戸とは違う独自の繁栄を遂げた街並みと、地域の密接なコミュニティを大事にする人々は未だ健在です。